この3人役割の違いを簡単に言えば、グッドイナフ博士がリチウムイオン電池の基礎論を作り、ウィッティンガム博士がリチウムイオン電池のアイデアや構想を練り、そして吉野彰博士がそういうすべてを基にしてそれ以上のリチウムイオン電池を完璧に仕上げた。
さて、そのグッドイナフ博士が一番最初に我が国の国際賞である
日本国際賞を2001年にもらったときに、研究経歴の自伝を書いていたようなので、それをメモしておこう。以下のものである。
このレジメは非常に興味深い。示唆に富んでいる。
まず、ワシントン=米政府の介入でアメリカのアカデミズムもどんどん変化していったということが書かれている。
つまり、最初グッドイナフ博士はMITの
リンカーン研究所で「磁性と化学結合」および「遷移金属酸化物」のさまざまな研究をした。
実はこの頃グッドイナフ博士が研究を行った遷移金属酸化物の研究から、いまでは物性論者の誰もが知っている
「
ペロブスカイト構造」

が初めて物性論に登場したのである。
このグッドイナフ博士の研究から、後々「遷移金属酸化物による高温超伝導」が発見されるのである。
ところが、米政府とMITの軍事研究協定を結んだ研究所でアカデミックな研究は遺憾となって、研究中止を余儀なくされ追い出されてしまったというのだ。
その結果、なんとかそこで生き延びようと別の研究テーマの長期計画を立てた。
それが、後にアルカリイオン電池につながる、「アルカリーイオン電解質」や「太陽エネルギー加熱のための波長選択式フィルム」、さらに、「固体酸化物燃料電池」や「太陽エネルギーによる水素発生」の開発だったという。
むろん、これらの研究計画もMITリンカーン研究所ではボツとなり、そこを去ってイギリスへと旅立った。
ここで、グッドイナフ博士が、今回の2019年のノーベル化学賞、そして2001年の日本国際賞の受賞テーマとなった、
アルカリイオン電池のカソードの研究を始められたのある。
さらに、遷移金属酸化物の高温超伝導物質の電子の局在非局在を利用した応用を考えるようになったというのである。
これが2001年の話であった。
あれから、さらに18年が経った。
そんなわけで、おそらく今年の一番新しい部類の研究をメモしておこう。以下のものである。
尽きることない研究意欲。実にすばらしい。
というのも、研究に関しては日米にかなりの環境の違いがあり、そのせいという面もあるわけだ。
アメリカでは、優秀な学者には永久職が与えられる。これは本人がもういいというか、つまり、
Enough is enough!
といって、辞職するか、死去されるまで永久に教授でいられる職のことである。
これがあるから、グッドイナフ博士もイナフ=イナフとお考えになられるまで研究を続けることができる。
これに対して、我が国の文句科学省こと文部科学省のやり方では、一律に定年退職である。あるいは、一律に定年年齢の延長である。
能力があっても定年退職、やる気があっても定年退職。逆に、能力がなくても定年延長、やる気がなくても定年延長。
こういうことになる。
実はこの前者のアメリカ型を「微分型評価」といい、日本型を「積分型評価」と定義したのが、「
反秀才論」

の故柘植俊一博士だった。1980年代のこのアルカリイオン電池の研究がまだ始まったばかりの時代である。
要するに、日本人は総じて論じる、皆一緒スタイルが好きだ。あらゆる人すべてを足してマクロの平均をとる。これが平均的思想。安倍晋三も日本人論の雄ねずさんこと小名木善行さんもこれをやっている。これが、積分評価である。
これに反して、人ぞれぞれ、いろんな人がいる。だから、個別に優劣をつけてきちんとミクロに評価する。これが微分評価である。
がしかし、これが日本人のインテリにできない。
差を見い出すことは日本的伝統の美意識に一見反するからである。
しかし信賞必罰。適材適所。こういう概念に適するのは微分評価である。いい人も悪い人も味噌糞にしては正しく評価できない。
先日メモした私の友人の山田弘明博士の医科系数学の教科書
の中の第9章のジップの法則や第11章のつながりの科学の中にも書かれているが、まあ、我々ネットワーク理論の研究者はみな知っていることだが、いわゆる
2−8の法則
というものがある。
全体の8割の貢献をする人は全体の2割に過ぎない。
全体の8割の金を稼ぐ人は全体の2割の働きによる。
実際に自分ができることは自分が当初計画した全体の2割程度である。→人は過大に計画する。
実際に自分ができたわずかの2割は実際にその人ができることの8割に匹敵する。→ちょっとでもできたら良しとせよ。
というような意味の法則である。
多くの人がこれを知らない。これは戦前から社会統計学ではよく知られた法則(ジップの法則とかパレートの法則というもの)だったが、その理由が、ネットワーク構造の理論ができてやっと定量的に分析できるようになったわけだ。
その結果、人は人気に比例して人気が高まり、皆が見るものを人は見たがり、皆が知りたがるものを人は知りたがり、皆が好きな人を自分も好きになりたがるのである。これを選択的追加とか、選択的接触とか呼ぶ。
ものを買う場合でも、変な販売員から買いたがらず、人気の販売員から買いたがるのである。
したがって、業績のある研究者にはたくさんの若手が勉強したがり、あまり業績のない人にはあまり学生が付きたがらない。
だから、グッドイナフ博士には彼が97才になっても世界中の若者が弟子になりたがり、一攫千金の夢を見る。
まあ、ニコラ・テスラのサイドに立つ私からすれば、グッドイナフ博士やウィッティンガム博士や吉野彰博士のエジソン型の直流電池も結構なのだが、もうちょっと先へ行けば、この宇宙の基底状態のゆらぎから無尽蔵に電気を取ることができるようになると思うから、まあ過渡的な技術だろうと見ているわけだ。
ところで、リチウムイオンと聞くと、私が一番最初にこのLiイオンの応用例として聞いたのは、精神病薬だったのではないかな。うつ病の人に炭酸リチウムを飲ませると、元気が出たとかそんな感じの話だった。
人間の脳にも効くし、リチウムイオン電池にもなる。
確かにリチウムイオンは謎だらけである。
しかし、ついでにメモすると、この10数年の私の研究経験からする最近の私個人の意見としては、生命は水素イオン、つまり、プロトン(=陽子=H^+)の働きで出来上がっているのである。
固体物理の基本が電子であり電子移動なら、我々生命体の基本とは陽子でありプロトン移動の世界なのである。
電子が酸化還元反応なら、陽子が酸塩基反応。
リチウムイオン電池で起こっているリチウムイオンの移動より遥かに複雑なプロトン移動が我々の細胞の内外で起こっている。
ちなみに、リチウムは水素、ヘリウムの次に軽い。水兵リーベのリーがリチウムである。
さて、話を前に戻して、昨日の吉野彰博士のインタビューの中で出ていたことだが、インターカレーションという言葉が出たはずである。
思い出せばこれも私がまだ阪大の大学院生だった時代の1980年代に出てきた現象で、グラファイトは炭素の2次元の層状物質だから、蜂の巣構造をしている。
この蜂の巣構造の間には隙間があるから、そこへ別の原子を組み込む(入れる)ことができる。これをインターカレーションと呼ぶ。そこへどれだけの個数のイオンを入れるかにより、全体の物性を変化させることができる。こういうことが当時研究されたのである。これをインターカレーション化合物と呼んだのである。
これが1980年代に盛んだった。
どうやらその頃に吉野彰博士は、負の電極=アノードの材質として炭素のグラファイトを使うことに思いついた。
確か私のその頃の記憶では、グッドイナフ先生もインターカレーションコンパウンドの論文出していたと思う。
実はこのインターカレーション化合物と似たようなことが生物のDNAでも可能になってきたのである。それを世界初で行ったのは、私がぜひDNA研究を始めてくださいと手招きした、昔の東京都立大、今の首都大学東京の溝口憲治博士とそのお弟子さんたちである。
いまでは、DNA二重らせんの間の水素結合のところにさまざまの金属イオンをインターカレート(挿入)して、DNAの物理的性質を変化させることができるのである。
こういう研究をまとめた洋書が、私のDNA電子論の解説もあるこれだった。
従来物性論は東大の十八番。素粒子は京大の十八番と言われたが、どうも最近の実験では、逆になった感がある。
ところで、グッドイナフ博士、もう十分では?
来年以降の日本人のノーベル賞受賞を期待しておこう。